生活保護費など現金給付でアルコールやタバコなど「ぜいたく品」への支出を増やす人は少ない:研究結果

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生活保護費など現金給付でアルコールやタバコなど「ぜいたく品」への支出を増やす人は少ない:研究結果

 

 

これは以前軽く紹介したものですが、「生活保護者が貰ったお金をぜいたく品に費やすとは限らないよ」という話。

さて生活保護に対して批判をおこなう人は多く、また多様な観点からその制度に対して疑義が寄せられているのは衆知の通り。批判ポイントの一つとして、例えば

「生活保護のような現金を給付する形では、もらった人間がパチンコやら酒やらギャンブルやら、無駄に浪費するだろ!けしからん!」

という意見があることは、良く知られたところでしょう。

このような話にはついつい納得してしまいそうなもの。ただ最近のメタアナリシスが示すところでは、実際のところ、生活保護など現金給付を受ける人は私たちが想定するほど無駄遣いをしていないようです。

(※「メタアナリシス」・・・統計的分析のなされた複数の研究を収集し,統計学的知見を活かして統合したり比較する研究法のこと。)

 

・生活保護がぜいたく品の購入増にはつながらない

これは世界銀行のデイビット・エバンス、スタンフォード大学のアンナ・ポポバ両氏が19の計量研究をメタ分析したところ明らかになったもの。

それによれば、

生活保護など現金給付がなされても受給者は酒やタバコなど「ぜいたく品」「嗜好品」といった類の商品の購入を増やさず、むしろ購入を減らす(支出を減らす)

ことが認められました。

 

・なぜ現金給付でも、ぜいたく品の購入が増えなかったのか。2つの可能性

生活保護など現金給付がぜいたく品の購入に結びつかなかった点について、両教授は次の2つの可能性を示しています。

①:現金給付による行動変化の可能性。「フライペーパー効果」

は貧困世帯の経済計算を変えるかもしれない。現金を受け取る前に、教育や健康への支出は無駄だったかもしれませんが、その後、両親は子供の学校への重大な投資が合理的であると判断するかもしれません。これが起こるようにするには、それは酒と喫煙を減らすことを意味するかもしれません。

現金給付が受給者の行動に変化を促した可能性があるかもしれません。これは行動科学の分野において、「フライペーパー(ハエ取り紙)効果」と呼ばれているものですが、特定の目的のためにお金が与えられると、人々や組織は、それを強制する人がいなくても、その目的のために使う傾向があります。

見えないハエトリ紙によって、人間の行動が抑制されてしまう――恐ろしくもあり興味深いものですね。

例えばこれは大幅な分権が認められているアメリカやカナダなど海外の地方自治体でよく見られることですが、これらの地方自治体においては、このフライペーパー効果のために、補助金の総額が増えてもなかなか適切な財源配当がなされないのだそうです。

当然のことながら、生活保護受給者は自治体から「家計のために適切に」お金を使うように指導されるもの。それが影響したという話。

 

②:家計を担うのが女性だから

その是非はともかく、実際のところ、多くの家庭において家計を担っているのは女性であることに異論はないでしょう。加えて女性が家計を担う場合、これも想像がつきそうなものですが、多くは食糧や子供の健康といったものに利用されることが実証研究で明らかになっています。

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とはいえ今回の話はあくまでも海外の話。

そのため日本においてそのまま当てはまるのか、パチンコとアルコールでは事情が違うのではないか、そもそも生保受給者に対する世の反感は「あいつらだけ得しやがって」みたいな嫉妬にも似た感情があるのだろうし、いくら生保受給者が適切にお金を使っていることを示しても意味がない、などなど色々とあるでしょうが、それでも今回の話は無意味ではないのではないでしょうか。

 

参考

http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/689575