ケニアで「史上最大」のベーシックインカム実験が開始。フィンランドなど、増えるRCTによる社会実験
「史上最大」のベーシックインカム実験が開始
アメリカのNPO団体「Givedirectly」は2017年11月、ケニアにおいて大規模なベーシックインカムの社会実験を開始しました。同NPO曰く、この実験は「人類史上最大のユニバーサルベーシックインカム(UBI)実験」であるとのこと。
今回のUBI試験の実験方法は以下の通り。
・まず200の村を3グループに分ける。
そのうち、
・40村には毎日0.75ドル/月22.50ドルのBIを12年間支給
・80村には同じ金額(毎日0.75ドル/月22.50ドル)を2年間支給
・残る80村には全額まとめて支給する。
・支給対象者は計16,000人ほど
RCT(ランダム化比較試験)というエビデンスレベルの高い手法を、社会科学に適用する
Givedirectlyは貧困対策を目的として2008年、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生によって設立されたNPO。
インターネットを用いて直接的に資金を調達するほか、従来医療分野での臨床試験(投薬試験など)においてよく用いられてきた試験法、「ランダム化比較試験(RCT)」を用いることで、エビデンスレベルの高い、信頼性の高い研究を行うことがその特徴。
RCTのエビデンスレベルは非常に高く、ほかの研究手法の追随を許しません。
※RCTとは何か
①:無作為に被験者をトリートメント群とコントロール群とにわけて、トリートメント群にだけ何かを処置し、2つの群の差を測定する方法。
②:これまで主に医療分野で用いられてきた手法だが、その効果の高さ・信頼性の高さから、最近では社会科学分野でもよく用いられるようになっている(例えばバナジー&デュフロ『貧乏人の経済学』など)。
③:具体的には、農家を無作為に2つのグループに分け、片方のグループだけ化学肥料を配布し、その生産性や所得への影響を計測するといった手法がとられる。
なおRCTを用いての発展途上国での貧困対策・社会実験について記した『貧乏人の経済学』のA・V・バナジー MIT教授は、GiveDirectlyの顧問を務めています。
・エビデンスレベルについて (上方に位置するほど、より信頼できる手法となる)
I | システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス |
II | 1つ以上のランダム化比較試験 (RCT) |
III | 非ランダム化比較試験 |
IVa | 分析疫学的研究(コホート研究) |
IVb | 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究) |
V | 記述研究(症例報告やケース・シリーズ) |
VI | データに基づかない、専門委員会や専門家・学者個人の意見 |
【関連】

増える、RCTによるベーシックインカム実験。フィンランドの国家実験も
ここ近年ベーシックインカムおいては、より正確な介入結果を得るためRCTを用いた実験があちこちで行われています。
最近ではカリフォルニア州オークランドのスタートアップ企業、Y Combinator(ワイコンビネーター)とミシガン大学調査研究センターがRCTに基づくプロトタイプの実験を開始しました。参加者が月に1,000〜2,000ドルを受け取るこの実験は、2019年に本格展開され、全米2州において大規模な試験が開始される予定となっています。
そうそう「国家レベルの単位で行われた」ことで先日話題となった、「フィンランドでのベーシックインカム実験(2017年から18年現在も実施中)」もRCTです。
主なベーシックインカム実験の一覧
リンク先はそれぞれの詳細ページ。
場所 | 実施年 | 実験人数 | RCT |
カナダ・マニトバ州(MINICOME) | 1974-79 | 1300人 | ○ |
米ニュージャージー州 | 1968-1972 | 1216人 | ○ |
米ワシントン州シアトル | 不明 | あわせて4800人 | ○ |
米コロラド州デンバー | 不明 | ○ | |
米インディアナ州グレイ | 1971-1974 | 1799人 | ○ |
インド マディヤ・プラデーシュ州(MPUCT) | 2011-2012 | 6000人 | ○ |
フィンランド | 2017-現在 | 2000人 | ○ |
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