書評『まっとうな経済学』。著:ティム・ハーフォード

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書評『まっとうな経済学』

 

『まっとうな経済学』とは、どのような本か

家に積読本としてあったこの本、『まっとうな経済学』。読んでみるとけっこう面白かったので、印象的だった箇所を中心にご紹介。

本そのものは、エッセイ形式のわかりやすい話から、現代社会の「しくみ」を学べる本。大言壮語で意識高めな話ではなく、身近で卑近、とっつきやすいトピックを取り上げているのがその特徴となっています。

 

①:競争相手を寄せ付けないでおく方法

先進国では通常、競争のために暴力に訴えることが許されていない。そのため、迂遠的な競争排除の方法があちこちで取られている。それらの例。

 

<①:労働組合の組織化(レントシーキング)>

労働組合(ギルド集団)の結成により、労働者は仕事をめぐって競い合い、賃金水準や労働条件が悪化するのを防ぐことができる。ここまでは悦ばしい。

ただ組合への組織化が進みすぎた産業は通常、競争が行われないため産業の硬直化と非効率化が起こる。結果として消費者に嫌われ衰退し、労働組合どころかその産業自体が消える。

例:アメリカの自動車産業(GMやフォード、クライスラーはその地位を日本メーカーに取って替わられた。)

 

<②:潜在的な競争相手の排除>

医師、会計士、弁護士などといった専門職は組合を組織することなく高賃金を維持している。これは「非常に長い免許の有効期間」「専門職団体の存在による新規認定者の寡少化(免許取得者が少ない)」といった施策により、潜在的な競争相手を間引いていることがその一因。

開業医が中心の日本医師会が医学部の新規創設に否定的なのも、上記引用と似たような理由からなんでしょうね。「コンビニ化」と呼ばれるほど、ありふれるようになった歯科医(歯科病院)の現状は反面教師的。

あと法科大学院の創立による弁護士の供給数多寡が、今後、どのような行く末を見せるのかは注視すべきなんでしょう。

 

②:社会意識と価格の関係

通常、社会意識の高い市民は価格意識が低く、逆に社会意識が低い市民は価格意識が高い。

これを利用して、フェアトレードコーヒーは小売店が金儲けをするための定番商品となっている。すなわち、このアイテムはフェアトレード化のコストをはるかに上回る利ザヤをふっかけて商売をすることが可能な高利潤商品なのだ。

「ああ、某自然派食品」などと卑近な例を思い浮かべ読んでいたら、その後にその◯◯が例として思い切り出てきた。

ただ著者は「価格意識の高い市民/低い市民」と2分するが、実際のところ話はそれほど単純ではなく、同じ人でも時と場合によって意識が変わるのが実情だと思う。空港などで売られているお土産クッキーが、それほど食べ物として質が良くなくてもバカスカ売れるのは、「旅行」がもたらす解放感からなんでしょうね。効用の補完性ないし限界効用の交替とでも呼ぶべきような。

それにしても、人口減少による内需縮小への対応と熾烈な競争の中での商品差別化のためか、日本では内需を頼りとする食品産業などを中心にプレミアム商法が著しい。そのような世界において、この例で取り上げられているような価格差別化の話は実に重要なんだろうなと思った。

なお本では社会意識云々と関係なく、スターバックスの価格戦略の話も出てきます。

 

③:ハッタリをかます(シグナリングとレモン市場)

通常、百貨店は大理石とローマ様式を備えた荘厳なつくりとなっている。銀行も同様に三井住友にしても、東京三菱にしても、JPモルガンにしても、やけに立派な建物を構える。

 

・三井住友銀行大阪本店

画像出典元:wikipedia

 

 

これはレモン市場(商品の質・中身がわからないものが売られる市場のこと)における、売り手の「高潔さ」をアピールするための演出だといえる。このようなハッタリは、世の中、枚挙に暇がない。

が、著者によれば、スーパーのオリジナル商品もこれらの一種だという。

スーパーはよく「お値打ち感」を前面に打ち出したストアブランドを導入する。パッケージのデザインは野暮ったく、レモネードだろうと、パンだろうと、ベークドビーンズだろうと、同じデザインを使う。優秀なデザイナーを雇ってもっと魅力的なロゴを印刷しても、それほどコストはかからないだろう。だが、それでは目的を果たせない。

このパッケージングは、もっと高い金額を支払っても良いと持っている客を遠ざけるために、最新注意を払って行われている。

要するに、スーパーのオリジナル製品は、銀行や百貨店の豪華な建物とは異なった方向性を持った「シグナリング」となる。