格差拡大の原因は何か。「グローバル化」より影響大な「偏向型技術進歩」

社会
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日本の格差拡大の原因は何か

 

1.70年代以降における、世界的な格差の拡大

1970年代以降、多くの先進諸国において労働者の賃金格差が拡大する現象が観察されるようになった。

例えば経済成長と不平等との関係については、「クズネッツ仮説」というものがよく知られている。

これは主要産業が農業から工業へと移っていくにしたがって、最初は所得格差が拡大するが、その後、低所得層の政治力が拡大し法律や制度の整備が進むことで所得格差が縮小するというものだ。すなわちこの仮説によれば、経済成長の初期段階においては不平等は拡大するが、ある程度成長が進むと縮小する。

 

実証的に見てもこの仮説はおおむね正しく、日本でも経済成長により戦後1980年代までは一貫して格差が縮小していた。なお戦前の日本は、農村における過剰労働が原因で世界でもまれな格差大国となっており、格差を示す数値であるジニ係数は50%を超えている。これは現在のアフリカ等発展途上国の数値に近い

 

戦後、日本でもある時期までは縮小していた格差。しかしながら近年では曲線の動きが変化し、格差が再び拡大するものとなっている。

 

・クズネッツ曲線 (豊かになれば格差は縮小する)

 

【ポイント】

・「クズネッツ仮説」というものがある。基本的に、豊かになれば格差は縮小する。

・クズネッツ仮説は80年代までは実証的にも正しく、日本でも戦後一貫して格差が縮小していた。

・戦前、日本は格差大国だった。ここでの所得格差の拡大の要因は, 農村⇔都市間の所得格差の拡大と、都市内における格差の拡大。そしてその原因は農村の過剰労働である。

 

 

2.世界的な格差拡大の特徴と、その原因

・格差の特徴

70年代半ば以降の所得不平等の拡大については、多数の実証研究の蓄積がある。例えば経済学者のカッツは、次の3点を述べる。

①:所得上位と所得中位の賃金水準の格差が拡大し続ける一方で、所得中位と下位の賃金格差は80年代に比べて縮小傾向にある。

➾金持ち総取り

②:直近15年においては、所得上位層と下位層の賃金成長率が所得中位層より高い。

➾最近では中間層が特に貧しくなっている

③:1980年代に比べ、「最も教育を必要とする職種」と「教育を必要としない職種」の労働需要が高い一方、「中位程度の職種」で労働需要が低くなった。

➾超高学歴と低学歴が求められる一方で、中ほどの学歴は必要とされていない

 

要するに「中間層の没落」が起こっている

これは決して他人ごとではない。なぜなら先進国どこでも人口比で最も占めるのは中間層なのだから。要するに多くの人が没落の憂き目にあう可能性がある。

そういえば2014年から2015年にかけて、フランスの経済学者トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』がベストセラーになったが、この本はまさしく「所得格差の拡大」による「中間層の没落」を扱ったものだった。

 

・先進国における格差の原因

一方、不平等が拡大した理由を説明する仮説としては通常、次の5つがあげられる。

1) グローバル化仮説:貿易の自由化が進み、未熟練労働者(誰でもできる仕事についている人)を集約的に雇用して生産する工業製品の輸入が増加した結果、未熟練労働者の需要が低下した。

2) 低学歴者増大仮説:例えばアメリカでは教育の質の低下や、移民労働者の流入増大により、高学歴者の比率が80年代に入って低下した。そのため、高学歴者の供給が低下し、低学歴者の供給が増えた。

3) 技能偏向的技術進歩仮説:IT化などにより、高学歴者をより多く必要とする技術進歩が生じ、高学歴者に対する需要が増加。

これまたアメリカではSTEM(理系)分野の学生への需要が増大し、初任給は石油化学専攻では9万7000ドル、コンピュータエンジニアで7万ドル、科学で6万4700ドルとなる(WSJの調査より)。

4) 労働組合組織率低下仮説:伝統的に労働組合は賃金の平等化を目的としてきた。だが組織率がここ近年になって急激に低下している。結果、賃金格差が拡大した。

5) 最低賃金低下仮説:最低賃金率がインフレ率ほど引き上げられなかったため、実質的に賃金が低下し低所得層が増加。

 

通常、一般的に想像しやすいのは「1)グローバル仮説」だ。

これは専門的にはストルバー&サミュエルソン定理から理屈付けされるが、ここにおいては先進国においては不平等が「拡大」する一方で、途上国では不平等が「縮小」する。これは90年代以後、ごそっと消えた日本各地の工場とそれを一因とする地方衰退、そして現在の中国の繁栄ぶりを見ていると実感できるものだろう。

 

・グローバル化で格差はこうなる(理屈上では…)

地域 格差のようす
先進国 格差「拡大」
発展途上国 格差「縮小」
世界全体 格差「縮小」(先進国より発展途上国のが人が多いから、発展途上国で格差が縮小すれば全体でも縮小となる)

 

とかくグローバリゼーションの評判は悪い。テレビでも新聞でも論壇でも、口を開けば皆、グローバリゼーションが格差拡大の原因だと口にする。そういえば先の米国大統領選においてトランプも、度々口にしていたではないか。「WTOによるグローバリゼーションで中国からの製品がアメリカに多く来るようになった結果、アメリカ人は貧しくなった。貿易など無くして、あの頃に戻ろう!Make America Great Again だ! 」と。

しかしながら実証結果が示すところにおいては、話はそれほど単純ではない。

 

 

3.グローバリゼーションより格差拡大の要因として重要な「技能偏向的技術進歩」

先のストルバー&サミュエルソン定理が示すところでは、発展途上国の格差は縮小するものだった。

しかしながら、現実は違う。すなわちこれは、貿易以上に別の要因が格差に関して影響大であることを意味する。

・グローバル化の理論と実際

地域 理論 実際
先進国 格差「拡大」 格差「拡大」
発展途上国 格差「縮小」 格差「拡大」

 

ハーバード大学の労働経済学者であるボージャスは、「貿易の拡大は賃金格差の拡大の20%程度を説明する」としているが、事実、多くの実証結果もそれに近い。IMFは1981年~2003年にかけて51か国のパネルデータを用いて、固定効果モデルから所得格差に寄与した各要因を分析した。次の通りとなっている。

・所得格差拡大の要因分解

ジニ係数 0.45
グローバル化 0.07
技術進歩 0.43
その他 -0.05

 

実際のところ、グローバル化より影響が大きいとされるのが「3)技能偏向的技術進歩仮説(skill biased technological change;SBTC)」である。聞きなれない名前だが、一体これはなんだろうか。

代表的な論者であるアセモグル、カッツは「技能偏向的技術進歩仮説」を「偏向的な技術進歩、とりわけ情報通信技術の発達と普及によるもの」と説明する。

すなわち大学教育が普及することによって、高いスキルを持つ労働者  が高いスキルを持たない技術者より相対的に増え、その能力を活用するような技術が開発されるようになった。

 

そしてこの「偏向的な技術進歩」の下、「高い」能力を労働の前提条件とするような技術体系が普及し、結果として高い能力を持った人々が能力を生かして収入を増やす機会が増えた一方で、「低い」能力のみを持つ人々は、機械による職能の代替により、逆に仕事を減らすことになった

 

IT技術やAI、コンピュータが人間から仕事を奪う

コンピュータなどIT技術の普及は良い例だ。

すなわちITの普及により、所謂「3K」業務などに代表される最もスキルを必要としない業務と、研究開発や経営企画といったコンピュータによっても単純に置き換えることの出来ない高度なスキルを要する業務の中間帯からの仕事を奪った。中間層が消え、労働需要の二極分化が進む。

最近、「機械が仕事を奪う」なる話(例えばブリニョルフソンほか『機械との競争』『ザ・セカンド・エイジ』『プラットフォーム』、タイラー・コーエン『大格差』)をよく聞くが、これに近いところがある。さすがに機械がすべての仕事を奪うことは無いとはいえ、多くの人の仕事が奪われている状況は、すでに発生している。

 

・技能偏向的技術進歩による格差拡大のしくみ

①:大学教育が普及する

②:高学歴・高スキルな労働者が増える

③:高スキル労働者が能力を生かすような、最適化された技術が増える(例:IT化)

④:技術によりそれほどスキルを持たない人々は機械に置き換えられてしまうようになった(例:工場労働者)

⑤:スキルを持つ人と、持たない人の格差が広がる

 

なお、ここでの「スキル」は必ずしも教育水準だけを意味しない。経験年数、生来の能力、男性と女性、または幸運な労働者と不運な労働者といった要素で定義することが出来る。

また、技術進歩は常に高スキル者に偏向的であるわけではない。時代、場所、産業などによって技術進歩がどのような要素偏向をもつかは異なってくる。

カッツによれば、20世紀初頭に発生した「職人工房から工場での組み立てラインを用いた大量生産方式への生産システムの変化」は、熟練労働者である職人を未熟練労働者に代替するもの、すなわち低スキル偏向的だった。ここでは、多くの低スキルな人々が豊かになり、アメリカではその後「黄金の1920年代」を迎えることになったことは歴史が示している。

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・労働組合の低下

これら2つの理由のほか、労働組合の組織率が低下し、非正規雇用者が増加したことも格差の原因としてある。格差要因として上記2つほど要因大ではないが、それでも先進国の賃金格差の10%のほどはこれで説明される。

 

 

4.日本の格差拡大の性質

日本の場合はどうだろうか。

近年、我が国でも所得格差の拡大が叫ばれており、事実1980年代以降、格差は拡がる傾向にある。

しかしながら、日本では少々事情が異なる。大竹文雄『日本の不平等』が、実証研究を元に説明するところでは、その主要因は「高齢化」と「世帯の小規模化」であり、必ずしも上述の格差要因が働いているとは言えない。

それでも、21世紀に入って以後、高齢化などだけでは説明できない格差の拡大がみられる。グローバル化と技術革新の進展により、日本も今後、本格的な格差社会となるのだろうか

 

なお、そもそもにおいて技術革新から不平等が拡大するということは、自明ではない。なぜなら、高等教育の普及とそれに伴う高学歴者の増加は、高スキル労働者の希少性を低下させ、それによって技能プレミアムも低下するために、高スキル労働者と低スキル労働者の間の賃金格差は縮小するはずだからだ。

加えて、日本の不平等が、アセモグルが参照したアメリカほどには著しく開いていないという問題点もある。同様に大陸ヨーロッパ諸国も格差の拡大はアメリカほどには顕著ではないが、その場合には雇用形態が大きく影響している。

 

 

参考文献

Autor, D. H., L. F. Katz, and M. S. Kearney (2006). “The Polarization of the U.S. Labor Market.” NBER Working Paper No. 11986.

Autor, D. H., L. F. Katz, and M. S. Kearney (2006). “Trends in U.S. Wage Inequality: Revising the Revisionists,”The Review of Economics and Statistics, 90(2), 300-323

Borjas, George J (2013). “Labor Economics, Sixth Edition,” McGraw-Hill Education, 2013

Daron Acemoglu (2002). “Directed Technical Change.” Review of Economic Studies 69: 199-230.

Goldin, Claudia and Katz, Lawrence F. (1998). “The Origins of Technology-skill Complementarity,”Quarterly Journal of Economics, 113(3), pp.693–732.

IMF(2007). World Economic Outlook

大竹文雄 (2005)『日本の不平等』日本経済新聞社

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