理屈から教えてくれる、わかりやすいオススメ統計学本の紹介まとめ
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統計学を気軽に学んでみたい、かつ、どうせ学ぶなら暗記ではなく統計式の意味が分かるようにしたいという統計学初心者の方向けのページです。
統計学を学ぶメリットとは
【統計学とは、科学の文法である】
世界的な認知心理学者、スティーブン・ピンカーは「21世紀に人びとが必須とする教養3つ」として、「認知心理学」「経済学」そして「統計確率」をあげています。
これら3つは大きな共通ポイントがあって、「どれも人間行動やモノゴトの原理特徴を、数理的に厳密に捉えようとしたもの」ばかり。考えてみると数理的分析を行うメリットとは、第一に「この世界の多大な情報を、情報量をできるだけ落とさずにそのまま表現できる」こと。
要するに、数学に基づいた説明を行うことにより、より緻密で綿密、そして精確な分析が可能となります。なぜ数学で説明すると緻密な分析が可能となるのでしょうか。わかりやすい図をご紹介しましょう。
・数理情報の情報量が多い理由
画像引用元:比江島 欣愼『医療統計学入門』
【科学の分野においては、すでに「学者や専門家の一意見より、統計科学のほうが信頼性が高い」ものとされている】
ところで、「エビデンスレベル」といったものをご存知でしょうか。これは元来は医学分野で生じたものですが、現在は幅広く様々な科学的分野においての指標となっています。が、下の表を見ればわかる通り、すでに「学者や専門家の一意見より、統計科学のほうが信頼性が高い」ものとされています。
・医学分野におけるエビデンスレベル(数値が小さいほど信頼性が高い)
より信頼性の高い「1~4」の手法は、統計学を用いた手法
1 | システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス、患者数の多いRCT |
2 | 1つ以上のランダム化比較試験 |
3 | 非ランダム化比較試験 |
4a | 分析疫学的研究(コホート研究) |
4b | 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究) |
5 | 記述研究(症例報告やケース・シリーズ) |
6 | データに基づかない専門委員会や専門家や学者個人の意見、体験談(1例の報告)、マスコミ記事 |
(アメリカ臨床腫瘍学会ガイドラインをもとに作成)

最近ではこれまで数理分析と無縁だった分野、「ビジネス」や「政策立案」「法曹界」「言語学」「人類学」といった分野でも、どんどん統計学が取り入れられてきていますが、それも上記を踏まえれば納得できるもの。
「統計学とは、科学の文法である」
なる文言は、統計学を学ぶ際によく聞かれるフレーズ。
なるほど、生き馬の目を抜く競争厳しいビジネス界において、物事を緻密に分析できる「統計学」が必須とされるのは、ライバルに差をつけるといった点で、さもありなんといった感があります。
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さてこのページは、「個人的に統計学を学ぶ際に役立った本」の紹介です。選んだ本の基準としては、いわゆる「ハウツー本」ではなく、「ものごとの原理を丁寧にレクチャーしてくれる本」を選びました。
読み物、啓蒙本系(「なぜ統計学を学ぶ必要があるのか」を知る)
統計学が世間においてどのように役立っているのかを知る、導入目的としてピッタリな本です。
①:イアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』
難易度:★☆☆☆☆ 1 / 5(とってもカンタン)
最近では「AIが仕事を奪う」なんて話が囁かれていますが、それを的確に示してくれる本です。
この本のすさまじいところは、統計学の初歩の初歩である「回帰分析」のほうが、いわゆる「専門家」の判断より、はるかに正確で信頼できるということを示している点。
文中においては「医師による病気診断」「貧困をなくすための有効な福祉政策」「再犯率を下げるための有効な防犯政策」「職人によるワイン作成」「米国最高裁での違憲判断」「商品のヒット予測」などさまざまなトピックが出てきますが、専門家の長年の勘と経験が導いた結論より、手持ちのExcelで導けるもののほうが信頼できるのだからたまりません。
なおアッシェンフェルター博士が作成した、美味しいワインを作るための「ワイン方程式」は次の通り。
ワインの質=12.145 + 0.00117 x 冬季の降雨 + 0.0614 x 育成期の平均気温 – 0.00386 x 収穫期の降雨
そのほか、「Amazonでのオススメ商品の紹介」「出会い系アプリでのマッチングシステム」「(Googleも自社に取り入れた)辞めそうな社員を予想して、その人に最適なフォローを行う方法」など、統計学の実用性を垣間見ることができます。
② ③:スティーヴン・レヴィット『ヤバい経済学』『超ヤバい経済学』
難易度:★☆☆☆☆ 1 / 5(とってもカンタン)
「大相撲の八百長を統計分析で明らかにしちゃった」として知られる本(実際は、一番最初に統計分析で明らかにしたのは鳩山由紀夫元首相ですが)。
計量経済学を用いて、さまざまな社会事象を分析。
「ニューヨークの犯罪率が低下したのは中絶合法化のため」「温暖化対策にはCO2削減より大気圏に塵を撒いたほうが良い」など、びっくりするような結論が出てきます。全世界ベストセラー、トリプルミリオンも納得の面白さ。
因果関係を推定する統計手法「因果推論(下に参考図書を紹介)」に基づいた、よりエビデンスある誠実な分析で質もカバー。良くあるこじつけや勘、偏見によるものではありません。
基本:統計学の原理を、わかりやすく解説
④:大上丈彦『マンガでわかる統計学』
難易度:★☆☆☆ ☆1 / 5(とてもカンタン)
Amazonで評判の本。
「統計の本質が直感的にわかる」との触れ込み(裏表紙に書いてある)だけど、確かにこの本はわかりやすい物となっています。
本書において、解説の中心を担うのはあくまでも文章であり、マンガ絵は「文章の要点まとめ」的な補佐役。これにより、あくまでもマンガ系数学本の欠点である「絵が主、文章が従になることから生じる情報量の少なさ、そこから生じるわかりにくさ」を、上手にカバー。
・中身はこんな感じ
ところどころ「その数式の意味」が省かれている箇所はありますが、それはそれら式の意味を覚えてもあまり有用性が無いため。「初心者の方向け」としては十分な内容でしょう。
扱う内容は「平均・分散。標準偏差」「正規分布」「2項分布」「中心極限定理」「ポアソン分布」「点推定・区間推定など推測統計」「仮説検定」など。
⑤:小島寛之『完全独習 統計学入門』
難易度:★☆☆☆ ☆1 / 5(とてもカンタン)
Amazonで評判の本、その2。
通常、大学教授が書く統計学の本というものは初学者にはとっつきにくいものですが、この本は別。
著者は元々、受験産業では有名な数学講師の方でした。そのため、この本も非常にわかりやすいものとなっています。
「使うのは中学数学だけ!」のキャッチフレーズに偽りはありません。各章ごとにわかりやすく「まとめ」のページが設けられているのも、元・教育業界の人が書いたならではの親切さを感じさせます。
内容は平均、標準偏差、信頼区間、t検定、カイ二乗検定、Z検定など。特に標準偏差とカイ二乗検定が詳しく説明されています。
・中身はこんな感じ(kindle版)
⑥:栗原伸一『入門 統計学 −検定から多変量解析・実験計画法まで−』
難易度:★★☆☆☆ 2 / 5(カンタン)
区間推定、検定、分散分析、多変量解析、多重比較法、実験計画法、主成分分析など、理系統計の基本的な内容を紹介。
農業経済学が専門である著者による、大学での講義を元にしたという本著。「各講義で学生から寄せられた、”わからなかった点”をフィードバックして書いている」とのことで、なるほど確かに、読者にわかってもらおうとする熱意が伝わってくる本。
往々にして、大学教授の書いた統計学の本はわかりにくいものですが、本書にはそれがありません。
数式がほとんど存在しないので(あることにはある)、数学が苦手な人向け。具体例も豊富です。
・中身はこんな感じ
⑦:大村平『統計解析のはなし』
難易度:★*☆☆☆ 1.5 / 5(とてもカンタン)
わかりやすさで定評のある大村平氏の本。これはオススメ。
ていねいに「その統計解析の意味や理屈」を解説してくれており、初心者にもわかりやすい内容。
中学数学レベルのわかりやすい数式を用いて、じっくりと説明してくれるており、苦手な人にもわかりやすい作りとなっています。
⑧:大村平『今日から使える統計解析』
難易度:★*☆☆☆ 1.5 / 5(とてもカンタン)
上にも紹介した大村氏の本。こちらは大村氏の「統計のはなし」「統計解析のはなし」の内容をギュッとまとめたような内容。相変わらずわかりやすいものとなっています。
元々のわかりやすさに加え、出版元が大手の講談社なため読みやすさへの配慮がなされており、見出しやコラム、イラストなどを用いたわかりやすいレイアウトであるのもグッド。
好評ゆえか、最近ブルーバックス版(新書版)も出ました。
・ブルーバックス版
・オリジナル
⑨:西岡康夫『単位が取れる 統計ノート』
難易度:★★*☆☆ 2.5 / 5(ややカンタン)
最近では「R」「SPSS」「Stata」など統計ソフトが充実しており、おなじみマイクロソフトの「Excel」でもそれなりのことができますが、実使用ではなく、
「統計学に出てくる数式の意味を、くわしく知りたい」という方向けの本がこれ。
代々木ゼミナール講師の方が書いた参考書だけあって、じっくりと教えてくれます。証明もていねい。出版元も大手の講談社なため、多色刷りでレイアウトも見やすい。
扱う内容は単相関、最小二乗法、回帰分析、正規分布、t分布、カイ二乗分布、F分布など。高校3年生~大学1年生程度といったレベル。
⑩:マセマ『スバラシク実力がつくと評判の統計学キャンパス・ゼミ』
★★★*☆ 3.5 / 5(ふつう~すこし難しい)
理系大学生にはおなじみ、マセマ出版社の本。
シリーズ共通、相変わらずの懇切丁寧ぶり。
⑪:高橋信『マンガでわかる統計学』
難易度:★★☆☆☆ 2 / 5(カンタン)
統計学の基礎の重要事項をマンガでわかりやすく解説。対話形式なので、わかりやすい。
ただしマンガという形式上、どうしても分量に制約があり、その分説明が省略され理解の妨げになっている箇所があるように思います。
⑫:宮川公男『基本統計学』
難易度:★★★☆☆ 3 / 5(ふつう)
これはほかの数学の勉強にも当てはまることだと思いますが、結局のところ、統計学を理解するためには、出てくる数式の「意味」が分からないと深い理解が行えません。
この本は内容こそ初心者向けですが、統計学の公式をきちんと証明。それにより、深い理解が可能となっています。
よって、よくある社会人向けな「お手軽エクセル統計本」とは対極に位置しますが、この本は読了後の「わかったようでわからない、あやふやな気持ち」というものが残りません。
これはエクセル本とは異なります。そういった類の本は、大抵が説明を省き読者へ丸暗記を押し付けているものが多いため、「一見わかりやすいようでいて結局のところわかりにくい」といったことが多々生じます。
本著では、式も展開が省かれておらず丁寧に書かれており、数学自体もほとんど高校レベルのもの(一部大学1年生レベルあり)。まさに「基本統計学」のタイトルに適した本となっています。
多変量解析
複数の原因(多変量)を元に、生じている結果を数学的に説明する手法。上記紹介のデータサイエンティスト、ネイト・シルバーが、アメリカ大統領選挙の各州選挙予測の際に用いて全50州を当てたのがコレ。
⑬:有馬哲・石村貞夫『多変量解析のはなし』
難易度:★★☆☆ 2 / 5(カンタン)
多変量解析のわかりやすい解説本といえば、これ。
ほかの本では省かれているような数式まで、懇切丁寧に記述されていてわかりやすく、また身近な日常例を元に統計分析が行われており、イメージがわきやすいものとなっています。
⑭:大村平『多変量解析のはなし』
難易度:★*☆☆☆ 1.5 / 5(とてもカンタン)
わかりやすい解説で定評ある大村平氏の本。こちらは多変量解析バージョン。
⑮:永田靖『多変量解析法入門』
難易度:★★★*☆ 3.5 / 5(ふつう~すこし難しい)
理系大学生にはおなじみサイエンス社の本。問題が多めで実用的。
他のサイエンス社の本同様、ていねいに書かれています。しかし理系学生向けなので、説明には数式が多々用いられています。
統計学は何の役に立つか
⑯:田栗正章、C・R・ラオほか『やさしい統計入門』
難易度:★★☆☆☆ 2 / 5(カンタン)
ブルーバックス(理系向け新書)なので読みやすい本。
視聴率調査、ガン検診、偏差値など身近なトピックから、さまざまな概念をわかりやすく解説。P.265掲載の「20世紀以降における分野別にみた統計学の応用」も参考になります。
啓蒙本・一般向け・ポップサイエンス本の類ですが、それでも少々数式が出てきます。
YouTubeで解説動画
・塾講師オザワの丁寧な授業
難易度:*☆☆☆☆ 1.0 / 5
CMめいていて恐縮ですが、YouTubeにおいて、統計問題の解き方を解説した動画をアップロードしています。
内容は上記初心者向け統計本には書かれていないような、「実際の統計学問題の解き方」を中心に解説。
高校数学
統計学を学習していると、どうしても数学の勉強は不可欠になってくるもの。
基本的な高校数学の勉強に適した本は、次のページで紹介しています。

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以下、各事項について説明が分かりやすかった本の紹介(今後時間が空いた際にコツコツ更新し、くわしく紹介していきたいと思います)。
読み物、啓蒙本系その2
・『日経サイエンス 別冊 184 成功と失敗の脳科学』
・『数学で犯罪を解決する』
・『NUMB3RS(アメリカドラマ)』
中心極限定理
・宮川公男『基本統計学』
分散分析(ANOVA)
3つ以上の群の標本から、元の母集団の平均位差があるかを検定する。
・石村貞夫『分散分析のはなし』東京図書
・津島栄輝、石田水里『医療系データのとり方・まとめ方―SPSSで学ぶ実験計画法と分散分析』東京図書
最尤法
・C・R・ラオほか『やさしい統計入門』(ブルーバックス)に、入門的解説
共分散分析構造(SEM)
・豊田秀樹『原因をさぐる統計学ー共分散構造分析入門(ブルーバックス)』講談社
RCT(ランダム化統制試行)
・トーガーソン『ランダム化比較試験(RCT)の設計 ヒューマンサービス、社会科学領域における活用のために』
ベイズ統計学
・小島寛之『完全独習 ベイズ統計学入門』
・渡部洋『ベイズ統計学入門』
時系列解析
・森棟公夫『計量経済学』
・横内大介ほか『現場ですぐ使える時系列データ分析 ~データサイエンティストのための基礎知識~』
因果推論
80年代後半に人工知能の研究者、ジュディア・パールが考案する。確率論に「介入」なる観点を導入することで、相関関係ではない因果関係を数学的に定式化したもの。
・岩波データサイエンス委員会『岩波データサイエンス Vol.3』
・アングリスト&ピスケ『ほとんど無害な計量経済学』
・星野崇宏『調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合』
R
・山田剛史『Rによるやさしい統計学』
Python
・辻真吾『Pythonスタートブック』
・クジラ飛行机『実践力を身につける Pythonの教科書』
数理統計学
数学的にキチッと学びたい人のための本。そのため、初心者向けとしては少々難しいかもしれません。
・永田靖『統計学のための数学入門30講』
・和達三樹『キーポイント 確率・統計』
・馬場敬之 『スバラシク実力がつくと評判の統計学キャンパス・ゼミ』
理系学生におなじみのマセマの本。