水道民営化法案に関するデータ集。水道事業は90%以上が黒字、すでに一部民営化も持続性について懸念の声も

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水道民営化法案に関するデータ集。国内水道事業は90%以上が黒字、すでに一部民営化も持続性については懸念の声も

 

水道事業の民営化活用を促す改正法案が、衆議院を通過

老朽化が進む水道施設の改修促進を目的に、水道事業をより多くの自治体が連携して行えるものとして、提出された水道法の改正案。先日7月5日の衆議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党などの賛成多数で可決、法案は参議院に送られました。

今回の水道法の改正案では、経営に民間のノウハウを取り入れようと、運営権を民間に売却できる仕組みを導入することなどが盛り込まれていますが、この点に対し、批判の声が多数寄せられるものとなっています。

水道民営化については、さまざまな角度から多くの意見が寄せられていますが、ここではより建設的なディスカッションのため、少しデータを探ってみたいと思います。

 

参考資料;

日本における水道事業の種類別事業件数

日本では現状、地方公共団体が水道事業を実施するのが基本。

下表では民営の事業件数も確認することができますが、これは八ヶ岳高原ロッジや伊豆センチュリーパークなど、リゾート地域において開発会社が独自に運営しているもののみとなっています。

事業主体 上下道事業 簡易水道事業 用水供給事業
都道府県営 4 1 23
指定都市営 17 0 1
市営 689 9 0
町村営 567 14 0
企業団営 49 0 55
民営 9 0 0

注:法適用企業を掲載

出典:溝渕真弓『水道事業の民営化に関する研究:需要・供給構造の経済学的分析』

 

日本の水道事業は90%以上が黒字。事業者数、黒字化率

日本の水道事業は現在、黒字の事業者が多く、経営が安定していることがその特徴。

現状の1350ほどの事業者において、90%以上が黒字であり、かつこの黒字化率は、年々向上するものとなっています。

・日本における黒字・赤字水道事業者数

出典:総務省自治財政局『地方公営企業年間』各年次版より作成

 

・水道事業黒字化率

出典:総務省自治財政局『地方公営企業年間』各年次版より作成

年度 黒字事業者数 赤字事業者数 総数 黒字化率
2002 1543 453 1996 77.3%
2003 1515 456 1971 76.9%
2004 1394 358 1752 79.6%
2005 1192 244 1436 83.0%
2006 1188 232 1420 83.7%
2007 1174 242 1416 82.9%
2008 1198 211 1409 85.0%
2009 1161 218 1379 84.2%
2010 1196 176 1372 87.2%
2011 1154 217 1371 84.2%
2012 1169 204 1373 85.1%
2013 1145 229 1374 83.3%
2014 1064 307 1371 77.6%
2015 1227 141 1368 89.7%
2016 1242 119 1361 91.3%

 

すでに民間活用は始まっている。懸念や反対の声も…

黒字化率の高さを背景として、すでに水道事業の民間活用は始まっており、現状において以下の方式がとられています。

①:PFI方式…設備投資から運営、回収まで約20年間に及ぶ長期契約で民間事業者に委託。埼玉県、千葉県、東京都など

「PFI」とはPRIVATE FINANCE INITIATIVEの略。「民間資金を活用しての社会資本整備」のこと。1980年代から英国で行財政改革を進め本格導入、日本では1999年7 に「PFI 推進法」が成立し、導入の道が開くことになった。

②:短期民間委託方式…維持更新と運営管理を約5年程度で民間に委託。群馬県太田市、神奈川県横浜市、神奈川県南足柄市など

 

・懸念や心配の声も・・・

これらの民間業者による事業の持続性や継続性については、他の民間委託と同様、懸念や警鐘を鳴らす声もあります。

例えば2006年3月20日の水道産業新聞によれば、水道事業の民間委託に当たっては、コスト削減を追い求めた結果、民間業者側が予定価格を大幅に下回る入札価格で落札する現状があるとのこと。

同様に2009年2月19日発表の水道産業新聞では、将来の設備更新計画を策定せず、老朽設備への投資を先送りにする事業者があらわれているケースが報告されています。

・より詳しくは‥

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給水人口が5万人を割ると赤字。管路更新率も低下

90%の事業主体が黒字とはいえ、人口規模の小さな地域ほど経営が厳しいものとなっており、おおむね、人口5万人を割ると赤字になる傾向が顕著となります。

また、設備や管路の老朽化が進んでいる一方で、更新対応率が低下しており、2014年の管路更新率は0.76%に。これはすべての管路を更新するには約130年かかるものとなります。

・給水人口別、損益状況

出典:日本政策投資銀行「我が国水道事業の現状・課題。将来予測と今後のソリューションの方向性」2017年

 

民間水道が普及している主な国(民間会社による水供給は9億6000万人)

特にフランスは水道民営化の歴史が古く、18世紀から行われているため民営化率が高い。いわゆる「水メジャー」のメーカーもフランスの会社

そんな同国も、現在では再公営化の流れが起きています(くわしくは、「⑦:水道事業を再公営化する自治体が増えている」にて)。

またイギリスの水民営化は、サッチャーが主導しました。

・民間水道が普及している主な国

イギリス:民営水道90%(公営水道は10%)

フランス:民営水道76%(同24%)

チリ:民営水道50%(同50%)

スペイン:民営水道48%(公営水道は52%)

アルゼンチン:民営水道48%(公営水道は52%)

ドイツ:民営水道20%(同80%)

アメリカ:民営水道20%(同80%)

【民間の水道会社による世界中の供給人口】:計9億6240万人

出典:下記参考文献参照

 

主な民間水道会社について

フランスの2つの会社、「ヴェオリア」「スエズ」が世界的なメジャーメーカーであり、共に供給人口は1億人を超える。ほか、その地域や各国でのナンバーワンメーカーの供給人口が多く、トップ21メーカーの供給人口は5億600万人に迫ります。

・主な民間水道会社(2012年)

順位 企業 本社所在地 供給人口 自国内供給比率(%)
1 ヴェオリア フランス 1億3130万人 18
2 スエズ エンバイオロメント フランス 1億1740万人 10
3 北京エンタープライズ 中国 2850万人 100
4 FCC スペイン 2830万人 46
5 Sabesp ブラジル 2710万人 100
6 RWE ドイツ 1830万人 72
7 ACEA イタリア 1800万人 54
8 上海インダストリアル 中国 1750万人 100
9 NWSホールディングス 香港 1610万人 100
10 アメリカンウォーター アメリカ 1600万人 98

TOP21メーカーの供給人口:計5億6000万人

出典:三井物産戦略研究所「水道サービス産業の世界動向」2015年

 

水道事業を再公営化する自治体が増えている

世界の水道民営化を調査・公開する機関PSIRU(公共サービスリサーチ連合)によれば、2000年~2015年3月末までの期間において、民営化された水道事業のうち、235が再公営化されました。再公営化された国は世界37か国にわたり、しかも再公営化の件数は増加傾向にあります。

・水道事業再公営化の流れが起きている

出典:PSIRU「世界的趨勢になった水道事業の再公営化」

 

・国別;アメリカ、フランスなどで多い

出典:同上

 

 

・参考文献

満渕真弓『水道事業の民営化に関する研究:需要・供給構造の経済学的分析』、神戸大学学位論文、2010年

総務省自治財政局『地方公営企業年間』2002年度版~2016年度版

日本政策投資銀行「我が国水道事業の現状・課題。将来予測と今後のソリューションの方向性」2017年

水道産業新聞「社説:費用削減の手段ではない/第3者委託」2006年3月20日

水道産業新聞「社説:値下げより果敢な投資を」2009年2月19日

Finger&Alouche, Water Privatisation, p.192, 2002

P.Bravo, Empresas Privadas con Sed de Agua, Su Dinero, No.176, 1999

Financial Presentation by Vivendi Environnement 2001

三井物産戦略研究所「水道サービス産業の世界動向」2015年

PSIRU「世界的趨勢になった水道事業の再公営化」