【書評要約】『WILLPOWER 意志力の科学』行動科学でパフォーマンスを向上させる。著:ロイ・バウマイスター

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【要約】バウマイスター『WILLPOWER 意志力の科学』:行動科学の知見を用いて能力を向上させる

 

 

【導入:本書『WILLPOWER 意志力の科学』とは】

いかにも”自己啓発の本”といった感じのタイトルで、実に胡散臭い本著『WILLPOWER 意志力の科学』。

とはいえ、書いた人はまともな人。著者であるロイ・バウマイスターは文中解説にもある通り、「心理学者として世界で最も研究結果の引用が多く、影響力の大きいひとり」。

最近では人々の強みや長所を研究する「ポジティブ心理学」が知られるようになってきましたが、関連して心理学なり行動科学なりの科学的知見を用いて人々の生活をより充実させようとする試みが広がっており、本著もその方向性にあるものと言えそうです。

 

【内容要約・紹介】

[第1章 意志力とは何だろう?]

  • 意志力(自己コントロール能力、自己統制能力)は、その量に限りがあり、使うことで筋肉のように疲労する

意志力とは自分自身をコントロールする能力のこと。フロリダ州立大学の社会心理学の教授であり、この分野の研究の第一人者である著者(ロイ・バウマイスター)は実証研究により、人間に「意志力」が備わっていることを示した。

 

  • 意志力=自己コントロール能力は、個人に幅広い利益をもたらすと考えられる、2つしかない性質の1つであることが、実証研究から結論付けられている

個人に幅広い利益をもたらすもう一つの性質は知能であるが、これは向上させるのがかなり難しい。

一方で、意志力はトレーニングによってアップさせることがカンタンにできる

それゆえ意志力について理解することは重要。

 

  • 意志力は知能と異なり、その向上が容易であり、かつ長期間にわたる

社会階層の分断が著しいアメリカでは、環境不遇児を対象とした、知能の向上を目挿した就学援助プログラムが多くの地域で用意されている。これらは参加している間は成績が向上するが、参加しなくなると意外と早く効果が薄れる。

一方、意志力は知能と異なりその向上が容易であるし、加えて効果が長期間にわたるのだ

 

【意志力による利益の一つ:健康】

意志力(自制心)の強い人は喫煙やつまみ食い、飲酒を避ける傾向にある。よって健康的になりやすい。そしてこれらがいったん習慣になってしまえば、その後の生活のいくつかの面がスムーズに進む可能性が高い。

【意志力による利益の一つ:業務遂行能力】

キャリアの若い研究者に関し、その研究方法とキャリアの積み方を研究した。

研究者とは上司がいない、また他人にスケジュールを強制される仕事でもないから、研究方法はさまざまに違っている。おおむね次のパターンに分かれる。

①:資料を十分に集め、1日中あるいは寝る間を惜しみとにかく集中して一気に論文を書く

②:毎日コツコツ1~2ページを書き進める

③:その中間

数年後、彼らの命運ははっきり分かれていた。毎日コツコツ1~2ページの研究を行った者たちはそのキャリア形成が順調な一方、一気に書き上げる研究者にはそのキャリアを終わらせた人も多かった

著者は、「自己コントロール能力を発揮して毎日の習慣にしてしまえば、長い目で見たとき無理をせずに多くの仕事ができるようになる」とする。

 

[第2章 意志力の元になるエネルギーを高める]

  • 全ての行動に用いられる意志力の出どころは1つ。そのエネルギー量には限りがある

限りあるものゆえ、あれもこれも行応答すると中途半端になってしまう。それゆえ目標は一つに絞ったほうが良い

 

  • 意志力が使用する事柄は次の4つ。思考コントロール・感情コントロール・衝動コントロール・集中コントロール
  • 意志力が弱まると、刺激や欲望を強く感じるようになる

すなわち意志の消耗した人は、悲しい映画を見るとより悲しく、楽しい絵を見るとより楽しい気持ちになり、物騒な絵を見るとより恐怖を感じて動揺するようになる。

 

  • グルコースを取ることで、意志力を保つことができる。なお摂取する場合は低GI食品が良い

グルコースを取ることで意志力を保つことができるが、GI値が高い食べ物の場合は血中のグルコース濃度が急激に上昇下降し、かえってグルコースが不足して自己コントロール能力が低くなる。

そのため、意志力を保つには低GI食品を食べることを心掛けたい。

 

  • 体調が悪い時は意志力が低下しやすい

体調が悪い場合、体は免疫機構にグルコースを使用するため脳が使えるグルコースは減少する。結果意志力は低下する。

 

【用語】

・GI値

グリセミック指数。この値が高い食べ物は短時間でグルコースに変化(=血糖値が上昇)する

 

・低GI食品の一覧

精製されていない(精製されていない食品は、成分が均質でないため糖分吸収にばらつきが生じやすく、結果血糖値が急に高まらない)、もしくは低糖質食品(低糖質なためそもそもにおいて血糖値の上昇が起こりにくい)が多い。

玄米、ライ麦パン、オートミール、そば、中華麺、長ネギ、大根、ブロッコリー、ナス、キャベツ、小松菜、チンゲンサイ、桃、柿、イチゴ、オレンジ、ちくわ、肉全般、魚全般、牛乳、小豆、大豆、納豆、豆乳、ピーナッツ、ポテトチップス、ゼリー、など

 

[第3章 計画を立てるだけで効果あり]

  • 意志力形成のために、計画を立てる

なお細かく毎日計画を立てるよりは、月ごとにざっくりと立てたほうが良い。計画を立てるだけで意志力が減るからその機会を減らしたほうが良いし、また細かすぎると計画が履行できないケースが生じやすく、その場合かえってストレスになる。

 

 

[第4章 決定疲れ]

  • 決定をするだけで人間は疲れる
  • この「決定疲れ」をできるだけなくすために、自動的にする行動やルーチンワーク(習慣)を多く取り入れる

ルーチンワークの導入により、意思決定の機会をできるだけ減らし意志力の減退を防ぐ。

 

[第5章 自分を数値で知れば、行動が変わる]

  • 自分のようすを数値で知るだけで効果がある。記録をつけることは重要
  • その際、自分だけでなく他人と数値を比較すると普通以上の利益が得られる

具体的な数値で知ることで、自分を監視することができる。

近年ではFITBITやGarminなど、歩数・睡眠・消費カロリーなど自己の生活を記録することができる製品が数多く登場しているが、これらは有効。

 

  • 自分へのご褒美もこまめにしたほうが効果的

 

[第6章 意志力は鍛えることができる]

  • 意志力は鍛えることができる

意志力は筋力のように、簡単なトレーニングで鍛えることができる。

 

  • 意志力を向上させる具体的なものは次の通り。「話し方を変えてみる」「姿勢に気を付ける」「普段何気なくしている作業を利き手ではないほうの手で行う」、など

以上は実証研究によって示された。

 

  • 何か一つがうまくいくと、ほかのことも連鎖的にうまくいく

ある領域で自分を抑えることができるようになると、それが生活のあらゆる面でプラスに波及する。

 

[第7章 探検家に秘訣を学ぶ]

  • よい習慣をつける、こつこつ続けることが重要

自己コントロール能力によって良い習慣を一つ作ると、それがほかの面に波及効果を及ぼす(第1章の「健康」がその例)。またこつこつ続ける・習慣にすることで高いパフォーマンス能力を発揮しやすい(第1章の「若手研究者の研究方法とその後のキャリア」がその例)。

 

 

 

[第8章 特別な力]

  • 宗教は自己コントロール能力を高める

宗教は異なる価値観の摩擦をなくし、自分を調節する役割を担う。信仰心が高い人間のほうがあらゆる年代において活発に行動しているし、長生きしている。

 

  • 締め切りや願掛け、(ゲーム理論など応用数学で用いる)コミットメントルールなど、「明確な一線」を引くことがパフォーマンスを上げるうえで重要

上の宗教との関係でいえば、宗教による掟・人知を超えた神の存在はこの「明確な一線」を人間が作るのに役立ってきた。それゆえ、信仰者はパフォーマンスを上げやすい。

 

 

[第9章 自尊心より自制心]

  • ヨーロッパ式の自尊心ではなく、アジア式・儒教式の自制心を鍛える教育が重要

自尊心を植え付ける教育は学力低下を引き起こす。アメリカの自尊心を植え付ける教育はよろしくない(編注:確かにアメリカは学力テストの国際比較においてあらゆる強化が先進国最低レベルにある。もちろんこれは自尊心だけが作用しているわけではないだろうけれど)。

 

  • アジア系の儒教的・権威主義的なしつけは自制心を鍛えるのによい

良く知られるとおり、フリンのIQ研究によれば、アジア系はコーカソイド(ヨーロッパ白人)系、ネグロイド(黒人)系よりスコアが高い。

ヨーロッパ系アメリカ人の母親は、子供にプレッシャーをかけないことを心掛け、良い成績より社会的発達、自尊心を高めることを強調する。

一方、アジア系アメリカ人の母親は、儒教的価値観にのっとり、訓練・支配という考え方に沿って子供に自己コントロールを学ばせる、このような親はアメリカ人の感覚だと冷たく厳格に見えるが、実際アジア系の子供たちは学校の内外ですばらしい能力を発揮している。

 

 

[第10章 ダイエットをせずに減量をする]

自己コントロール能力を適切に促しての、正しい痩せ方の紹介

  • 自分自身を監視する。毎日体重を測り、食べたものも記録するとやせる
  • 太りそうな食べ物を手の届くところに置かない
  • 夜遅くに食べないためには、夕食後すぐ歯磨きをする

歯磨きは寝る前の習慣として(多くの人には)定着しているので、モノを食べるのを無意識のうちに人間に忌避させることになる。

  • 海外には自分で目標と実行できなかった際の罰を決められるサイトがあるが、これも罰の適切な設定次第で有効

不可能な懲罰を決めても意味がない。

  • 意志力を消費しないで痩せる、最も有効なのは胃切除手術だが、さすがにこれは過激
  • 「絶対やめる」ではなく、「あとでやろう」と思うとやめられる

 

 

【関連書籍・読書案内の紹介】

似たようなトピック、関連分野の本を紹介。

 

・マシュマロテスト

著:ウォルター・ミシェル

行動科学の分野でよく知られている実験、”目の前のマシュマロを我慢できるかどうかでその子供の将来がわかる”マシュマロ・テストについてわかりやすく解説した本。

 

日本人の9割が知らない遺伝の真実

著:安藤 寿康 

今回の本の中にも出てくる「実証結果がもたらす、理想主義や観念との相違」について把握する本。

たださすがに実証分野の専門家が書いただけあって、似たようなタイトルのベストセラー本と違って煽っておらず、誠実な内容。

 

・タイガー・マザー

著:エイミー・チュア

本書内で「権威主義的で自制心の発達に良い、すぐれたアジアの教育法」の例として紹介されている本。