ゲーム「ウルフェンシュタイン」から見る、ドイツのナチス表現規制
AFP通信の報道によれば、ドイツのゲーム倫理審査機関(ゲームレーティング機関)USKは、パソコンゲームや家庭用ゲームにおいて今後、「かぎ十字」などナチス・ドイツのシンボルの使用が許可される可能性があることを明らかにした(1)。
現状、ドイツでは基本的に、かぎ十字(ハーケンクロイツ)などナチス時代のシンボルは表現規制の対象として定められている。ドイツ刑法典第86条では「ナチスなど違憲組織の標章の公然使用」を禁止しており、これが表現規制の根拠となる。
そのほか、同法第130条ではヘイトスピーチや所謂「アウシュヴィッツの噓」、ナチスの暴力的支配の賛美の禁止も定めており、幅広い範囲において規制が行われていることが伺えよう。
実際、ベセスダ・ソフトワークスの人気ゲーム『ウルフェンシュタイン II』のドイツ版においては、「ヒトラーの口ひげの削除」「かぎ十字が三角形のマークに変更」といった措置が取られた。
・『ウルフェンシュタイン II』、ドイツ版と国際版の比較動画(右がドイツ版)
これらのことは、日本に住んでいるといささか不思議なことのように思われるかもしれない。すなわち、表現の自由に反するのではないかと。
ただこれは、むしろ日本やアメリカなどが例外的な事例のようだ。米ミドルベリー大学のエリック・ブライシュは、ニューズウィーク誌のインタビューに答え次のように言う(2)。
「ドイツ、オーストリア、イタリア、多くの東欧諸国など、第二次大戦直後にナチスのシンボルを掲げることを法律で禁じた国は多い」
「ホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)を否定する言論を禁じている国も多い。人種憎悪をあおる言論を禁じる国は、さらに多い」
再びAFP通信の報道を引用すれば、すでにドイツでは映画は表現規制の範囲外にある。ただ今回のゲーム規制撤廃報道はあくまでも「可能性」についてのものであり、今後、倫理審査機関USKは、ビデオゲームに映画のような例外を適用するかどうか審査を行なうとしている。
また今回の措置で、「緩和」へ向けた情勢が生まれつつあるかのように見えるドイツでのゲームと表現の関係だが、そう簡単な話ではないようだ。
一般的に、同国におけるゲーム規制の議論は高まりを見せており、特に2002年に起きたグーテンベルク・ギムナジウムでの元生徒による学校銃乱射事件後は、その声が一段と高まっている(放校処分に腹を立て事件を起こした元生徒が、所謂「暴力的なゲーム」のヘビーユーザーだったため)(3)。
参考文献など
(1):AFP通信「ドイツ、ゲームでナチスの「かぎ十字」解禁の可能性」2018年8月10日
(2):ニューズウィーク「ドイツが見出したヘイトとの戦い方」2017年9月9日
(3):戸田典子「ドイツの青少年保護法―酒、たばこ、有害メディアの規制」外国の立法 241(2009.9)
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